新種「クサイロコメツキムシタケ」について
- 冬虫夏草(とうちゅうかそう)とは、生きた昆虫に寄生し、殺して生えるキノコ(菌類)で、昆虫の天敵であり、自然界で昆虫が増えすぎないように調節する役割を果たしています。一方、薬用資源としても有名で、近年では害虫を駆除する生物農薬として活用する研究も行われています。
- 県内の冬虫夏草の多様性を解明すべく、当館職員が2017年から調査を行ったところ、地中に生息するコメツキムシの仲間の幼虫や蛹(さなぎ)に寄生した冬虫夏草が宇都宮市内の住宅地に近い雑木林から見つかりました。
- 注目すべき点は、子座(しざ:キノコの部分)が草色(くさいろ:くすんだ濃い黄緑色)を帯びている点で、このような特徴をもつ種類はあまり知られていません。
- そこで、上記研究グループがこの冬虫夏草について、顕微鏡観察、培養試験及び遺伝子解析を行ったところ、新種であることが判明し、この結果を日本菌学会発行の国際学術誌「Mycoscience(マイコサイエンス)」(2020年1月発行)に発表し、「クサイロコメツキムシタケMetarhizium brachyspermum」と命名しました。
左図:雑木林の地上に生えたクサイロコメツキムシタケの子座
右図:コメツキムシの仲間の幼虫に生えたクサイロコメツキムシタケ
新種発見に関する経緯
冬虫夏草とは、生きた昆虫に寄生し、殺して生えるキノコ(菌類)で、昆虫の天敵であり、自然界で昆虫が増えすぎないように調節する役割を果たしている。一方、薬用資源としても有名で、近年では害虫を駆除する生物農薬として活用する研究も行われている。
日本は冬虫夏草の宝庫で、世界にある約 500 種の内、実に 400 種あまりが分布しているが、栃木県に分布する冬虫夏草はほとんど未解明であった。そこで、県内の冬虫夏草の多様性を解明すべく、山本学芸嘱託員が 2017 年から調査を行ってきたところ、地中に生息するコメツキムシの仲間の幼虫や蛹に寄生した冬虫夏草が、宇都宮市内で見つかった。注目すべき点は、子座が草色(くさいろ:くすんだ濃い黄緑色)を帯びている点で、このような特徴をもつ種類はあまり知られていない。
そこで、当館、株式会社北研、神奈川県立生命の星・地球博物館から成る研究グループが、この冬虫夏草について顕微鏡観察、培養試験および遺伝子解析を行ったところ、新種であることが判明した。そこでこの結果を、2020 年 1 月発行の日本菌学会発行の国際学術誌「Mycoscience(マイコサイエンス)」に発表し、クサイロコメツキムシタケ Metarhizium brachyspermum と命名した。
クサイロコメツキムシタケは、宇都宮市内の住宅地に近い雑木林から見つかったが、これは身近な環境にも未発見の生物が生育していることを示す好例と言える。
論文タイトル:
Metarhizium brachyspermum sp. nov. (Clavicipitaceae), a new species parasitic on Elateridae from Japan
日本で発見されたコメツキムシ科に寄生する新種 Metarhizium brachyspermum(バッカクキン科)
著者:
Kohei Yamamoto, Muneyuki Ohmae, Takamichi Orihara
山本航平(栃木県立博物館)、大前宗之(株式会社北研)、折原貴道(神奈川県立生命の星・地球博物館)
掲載誌:
Mycoscience、61 巻 1 号、pp. 37-42(2020 年 1 月、日本菌学会発行)
展示場所及び期間
栃木県立博物館、(株)北研、神奈川県立生命の星・地球博物館から成る研究グループが発見した新種の冬虫夏草「クサイロコメツキムシタケ」の標本を、栃木県立博物館エントランスホールにおいて展示します。
トピック展は2月15日(土曜)から4月5日(日曜)まで開催します。
場所 : 栃木県立博物館 (宇都宮市睦町2-2)エントランスホール(無料スペース)
期間 : 令和2(2020)年2月15日(土曜)から4月5日(日曜)まで
休館日 : 毎週月曜(月曜が祝日の場合は開館し、翌火曜に休館します)